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[レビュー]家畜人ヤプーと社畜

2012年に読んだ小説の中でいちばんを選ぶのであれば「家畜人ヤプー」になる。正確には最終巻を読了したのは今年になってしまったのだけど。僕としては、奇書と呼ばれるドグラ・マグラを読んだときより、大きな衝撃だった。

以降、家畜人ヤプーについて書こうと思うが、もし汚物愛好や人体改造を含むグロテスクな描写に忌避感を覚えるのであれば、以下を読む必要はない。あえてグロテスクな描写をしようとは思わないが、家畜人ヤプーを述べる上でそういった描写を割けるのは難しいと思われる。そもそも、そういった描写が苦手な向きには、家畜人ヤプーは面白く無いだろう(というか表紙の時点でアウトだ)。

また多少のネタバレも含むが、本書の圧倒的な内容を前にすれば、下記の文など大した問題ではないであろう。

主題:被虐的世界の描写
家畜人ヤプーは、お話としては未来へのタイムスリップものだ。1960年代の男女カップルが主人公となり、二千年後の3970年へ連れて行かれて、未来世界の習俗に感化されていくという流れである。

しかし、家畜人ヤプーにおいて、タイムスリップおよび主人公たちの冒険は主題ではない。彼らの冒険は全5巻で丸2日も進まないし、そもそも最初の方で結論が示されている。その結論も特に驚くところもない。場面転換や主人公たちの内面変化は激しいが、それでも彼らは狂言回しに過ぎない。

では主題は何かというと、筆者のユートピア世界を詳細に描写することである。

筆者は、白人女性への被虐・隷属願望が非常に強い人間であった。彼は巷間のマゾヒズム小説に納得するものが見つけられず、己の渇望を医すためにユートピア世界を夢想していた。その世界を細部まで仕上げていくためには文字に落としていくことが必要だと考え、筆者が書き上げたのが家畜人ヤプーの世界なのだ(詳細は第5巻に所収されている「普及版あとがき」参照)。

つまり、筆者の夢想する被虐・隷属願望の行き着く先こそ、家畜人ヤプーの世界なのだ。筆者は病的といえるほど世界を隅々まで描画している。彼は「法律・裁判、経済・貨幣・税制、軍隊・警察、教育・医療・協会、演劇・スポーツ……イース世界百般の社会事象に関し」て全て考えており、それを記述しようとしているのだ。

家畜人ヤプーを読んで、筆者の被虐・隷属願望に比べれは、僕が想定する「常識・倫理などを破った世界」など児戯に等しいことを痛感した。完全に想定の範囲を上回る小説だった。

家畜人ヤプーの世界
家畜人ヤプーの舞台である未来世界(=イース世界)には2つの大きな特徴がある。「徹底した人種差別」と「女権専制社会」だ。筆者の白人女性への被虐・隷属願望が正に世界の軸となっている。

まずは「徹底した人種差別」についてだが、基本的には三段階があると考えてもらえば良い。3970年のイース世界では、イギリスが全宇宙を掌握し、白人による支配が行われている。白人の下には、使用人としての黒人、黒奴がいるが、黒奴は半人間として扱われ、人間たる白人とは明確に差別されている。そして、更に黒奴の下にいるのが家畜人ヤプーである。なお、白人・黒奴・ヤプー以外は第三次世界大戦において死滅した。

つまり、白人>黒奴>ヤプーとなっているのだが、このヤプーは実は現代の日本人のことである。イース世界での研究により、日本人は人類でなかったということが分かったため、半人間である黒奴より更に下の家畜、家畜人として扱われることとなったのだ。

ヤプーは人類でなく家畜人であるため、人類=白人の役に立つよう様々な分野に利用される。

ヤプーの使い道の一つは生体家具だ。便器、布団、椅子、机、バスタブ、犬、ハンドバッグ、楽器……など、白人の居住空間のほとんどはヤプーを使った生体家具で占められている。

生体家具となるヤプーは、白人が使いやすいように遺伝子および肉体を改造され、白人が使いやすいように教育されてきている。例えば便器として働くヤプー「セッチン」を例に挙げよう。セッチンは便器として働きやすいように口を裂き、舌を伸ばし、鼻の位置を変え、便座になるよう肩を癌化させて拡大し……といったように改造される。また同時に、便器として働く際のテクニックおよび白人を神と崇める洗脳のための学習を学校で習い、非常に洗練された便器としての奉仕を全力を尽くしておこなうよう仕込まれる。

他の使い道としては、燃料、食料、革……などあらゆる分野でヤプーは活躍している。イースの科学を持ってすれば、遺伝子的・外科的改造は勿論、寿命と引き換えに身体を極端に小さくすることや、使用者の脳波を受信して行動するようにすることもできるため、様々な分野に特異的なヤプーを作ることができるのだ。ヤプーの総数は非常に多いので、新種の構築のために幾らヤプーが死んでも構わないし、使っているものも要らなくなったら気軽に廃棄処分できる。

上記数段落では簡潔に留めたが、「家畜人ヤプー」本文中ではヤプーの使い道ひとつひとつが詳細に記述してあることは付記しておく。

イース世界のもう一つの特徴は「女権専制社会」だ。イース世界では、現在の男性主導の社会から女性主導の社会に切り替わり、労働をするのは女性の仕事、家を守るのが男性の仕事となっている。女々しいと雄々しいの意味合いが逆になっているのだ。例えば、黒奴の半人間はデミ・ウーマンと読む。

この「女権専制社会」の成立にもヤプーの一種、子宮畜(ヤプム)が大きく関わっている。ヤプムとは代理出産の腹となるためのヤプーである。白人女性が妊娠すると、その子種を極小畜(身長を極度に縮められたヤプー)が子宮の中に入っていって回収し、ヤプムの腹に移し替える。ヤプムはそのまま子供を腹にいれて育て、出産の際にはハラキリをして子供を取り出す(白人の子供がヤプーの産道を通るのはおかしいため)。

ヤプムにより白人女性が妊娠から実質的に開放された結果、女性による社会進出=女権革命が起こって女権専制社会が成立したわけである。

以上のようにして「徹底した人種差別」と「女権専制社会」という軸ができ、筆者の白人女性への被虐・隷属願望を表す世界の基本となっている。基本と書いたのは、上述した内容から更に隷属していく運命が待っているからであるが、それは本書を読んだときのお楽しみとしよう。

被虐・隷属願望において、自分が苦痛を感じることは大事であるが、その理由が相手への奉仕であることの方がより大事である。ともすると、衝撃の大きさからヤプーが踏みにじられていることだけに着目しがちではあるが、それだけでは片手落ちであり、あくまでも白人の心地良い生活のためであることを理解しなくてはならない。奉仕のためという前提があるからこそ、白人・黒奴・ヤプーを含む複雑な社会システムが詳細に構築されているのだ。

苦痛を伴う奉仕に喜びを
この小説が最初に発表されたのは1956年。その当時、この小説は筆者の欲望の具現化であると共に、現実の風刺と読むことができた。それもあって幾らかの人たちには受けたようである。

2012年の僕が読むと、西洋大国に蹂躙される日本という絵面にはピンと来ないが、「社畜」人ヤプーという言葉が何となく浮かんできた。

ヤプーは、自分の仕事は誰の仕事よりも尊いものであると信じてやまない。たとえ食べられるヤプーでも、白人(神)の身体の一部になれるなんて!という喜びでいっぱいのまま食べられていく。痛くても喜びが上回るのだ。白人の方も、ただヤプーを利用するのではなく、本人たちが満足して奉仕するように仕向けるべきだ(慈恵主義)、そうすることでより良い奉仕を受けられると考えている。

そこかしこにあるこの描写を見たとき、僕は、あまり面白くもない仕事を自分を騙して素晴らしいものだと思い込み、身体を壊してでもやっている社会人を想起してしまった。外の世界を見ることさえ知らない人を、忙しいことを求めている人を。

世界を描ききっている小説に触れると、人は自分の世界を投影してしまうのかもしれない。


家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)
(1999/07)
沼 正三

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余談だが、石ノ森章太郎の漫画も出ているらしい。どうやって漫画化したのだろう……。読んでみようかな。
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